ぽんこつ地獄変

ジュマンジやグリードアイランドを超えるクソゲーとの闘争

エイリアン3 感想 全文

ネタバレ全開なので未見の方はご注意を

 

デヴィッド・フィンチャー監督のエイリアン3は、アクションホラーSFの傑作と評される第2作目からガラリと作風を変えたことや、見せ場にやや欠けていたり展開がもたつき気味だったりしたことから当初酷評の嵐だったようです。監督本人ですら、公開に際して行われた再編集が気に入らず、自分の作品としては認めていないようですし、批判され過ぎて暫く業界から足を実質洗っていたというのも有名な話です。実際エイリアンシリーズナンバリング4作品の中では最も地味な作品だと思います。しかし、第1作目に漂っていた閉塞感をより煮詰めたような陰鬱な世界観や主人公リプリーを取り巻く凄惨な境遇・そして彼女が最後に導き出した答えが後年肯定的に再評価されるようになったことから、独特で尖った味付けにハマるタイプの方にはうってつけの作品とも言えます。

 

また、監督の次回作であるSE7EN」ほど反出生主義を直接表現した場面があるわけではないのですが、それに近い側面もいくつか持っています。今回はそれについて簡単に探っていきます。

 

 エイリアン3のぶっ飛んでいるところとして、初っ端から第2作目で主人公が救いだした幼い少女を含む人間2名とアンドロイドがあっさり事故で死んでしまうことが先ず挙げられるでしょう(アンドロイドの方は厳密には瀕死)。第2作目の冒頭でも、第1作目のラストで長いコールドスリープに就いていた為に、実の娘に先立たれたリプリーからすると2度娘を殺されたようなもので、化け物側が続投することが多いホラー映画界にあって力強く主人公を張り続けたが故に彼女はおぞましい運命に翻弄され続けたのです。

 

早速、不時着した凶悪な犯罪歴を持つ男性しかいない囚人惑星で亡くなった2人の為にキリスト教の教義に基づいていると思しき葬儀が行われます。ここで彼らに手向けられる言葉の中に少し反出生主義的というか、改めて「生」の闇の部分にスポットライトを当てているというか、そんなものもあってハッとさせられます。

 

「この子もこの男もこの暗き世を去った」「この子は早く死んで人生の苦労は知らずに済む。そして男の苦労は終わった」といったセリフが並べられる中、彼らの死後の安息を皆が祈るのです。

 

『神と生命倫理』『History of Antinatalism』といった反出生主義を論じた書籍が、聖書においても、人生や労働の賛美だけではなく、人生の苦悩や生殖の否定に繋がる箇所が見られることについて言及していましたが、それが改めてここで確認できます。製作者達の趣味もあるでしょうが。

 

加えて、中盤でエイリアンの脅威から逃れられていないことに気づき始めたリプリーが仲間のアンドロイドを再起動させ、自分達が乗ってきた宇宙船で何が起こっていたか確認するシーンは安楽死を想起させます。「苦しい お願いだ」「切ってくれ」「消滅したいよ」とボロボロになってしまった体で苦しそうにリプリーに訴えかけ、機能停止させてもらう彼の姿から、ロボットに人間のような意識を持たせることもまたむごたらしいと思うようになる方がいても不思議ではありません。

 

自身が新たなエイリアン・クイーンの宿主であることに気づいたリプリーが、生物兵器開発という邪悪な野望に燃える科学者たちを振り切り、溶鉱炉にダイブして悪夢を終わらせるというラストシーンも、ここでは背後のテーマを語り切れないほど奥行きがあり、大変示唆的です。特に、前作の監督であるジェームズ・キャメロンの「ターミネーター2」と似たラストであり、自決の理由も似ているところがあるのにリプリーとT800両者の胸中に去来する思いが全然違ったんだろうなというのが興味深く思えます。T800が未来から来た自分が自決することで未来へ思いを繋ぐというちぐはぐながら熱い思いを抱えて消滅したのに対し、生物学的には同じ女性であるクイーンの胎児と共に滅びることで男性社会やその抑圧を否定し、全てを喰らいつくしかねない禍根を絶ったとも取れるリプリーの状況はより考えさせられます。

 

蛇足ながら、反出生主義者としては、冒頭の葬儀やこのラストシーンでこども(時代)や次世代へ人々が抱えている憧憬や恐怖の片鱗を本作が見せてくれたことを特に評価したいです。如何なる状況下であってもこども達はまだまだ全世界規模で生まれてくるでしょうし、彼らの人生に抑圧的に干渉しようとする気も毛頭ないです。が、こどもが社会の礎として扱れがちな割に、一人一人の人生が割と容易く食い潰される現状に恐怖を抱き続けて生きることは先ず誰であっても避けられないし、それは続いていくでしょうから、なおさらこの”深堀り”もまた強い価値を持ち続けるのではないかと思いました。

 

 

参考

http://movie.tatsuru.com/alien.html

http://www.webdice.jp/dice/detail/5981/

神と生命倫理

https://www.amazon.co.jp/dp/477102667X/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_1QH8RVKHQ9G3X41SN1M8

https://calil.jp/book/477102667X

 

History of Antinatalism

https://www.amazon.co.jp/dp/B089XBYZWL/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_EM6KXTMPPCBZK0Q397KB