ぽんこつ地獄変

ジュマンジやグリードアイランドを超えるクソゲーとの闘争

未邦訳反出生主義本探求其肆 The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays

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                      The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays

 

ロシア生まれドイツ育ちのドイツ人Youtuber, Clear MindことSimon Levin氏が2021年に出版した詩編。このままポエトリーリーディングとかラップにしても映えそうだな~と思っていたらPodcastで著者本人がそれっぽく読み上げていたし、反出生主義者のラッパーMistro氏からの影響を公言していて合点がいきました。

 

Mistro氏以外の反出生主義者からも受けたであろう影響を滲ませながらユーモアと皮肉を織り交ぜた文体で子供を生むことの愚かさ、そして人を真実から目を背けさせる現代社会の毒が解体されていきます。NetflixやDisney Plusを糾弾している箇所はストリーミングにどっぷりつかっている身としては胸が痛かったですwそんな感じにシリアス一辺倒ではなく黒い笑いを浮かべてしまうような愉快なトラップがちらほらと。

 

著者が22歳までキリスト教信者だったようで、上述のPodcastで洗脳されていたようなものと個人的に述懐していたのもあって、聖書からの引用、そして反対に啓示への反論もちょくちょく積極的になされています。反面、「現代思想」を読んだ後では仏教への視点は輪廻からの解脱にフォーカスされすぎていてちょっと一面的かなあと。

 

ワードチョイスは全体的に比較的平易で、また、ちょくちょく解説も挟まれているので詩のことが全く分からない人間にも本作は読みやすく最終ページまで詰まらずたどり着けました。最後に幾つか特に面白かった箇所を引用しておきます。

 

I am already dying before taking first breath

Once the seed touches the egg, I give high five to death

 

Levin, Simon. The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays (pp.20). Kindle 版.

 

 

Obviously, not all of love is between men and women, it is also present between homosexuals, parents and children, family members, friends, etc. which does not result in offspring. But there is one thing they all have in common: They are the result of a special chemistry between individuals leading to feelings. There is nothing beyond hormones in our bodies making us hate or love one another.

 

Levin, Simon. The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays (pp.59-60). Kindle 版.

 

 

 

Free will`s not free because of things you have previously learned Priorities they are like brands this should make you concerned. Most people do act morally, fearing the consequences

 

Levin, Simon. The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays (p.61). Kindle 版.

 

 

 

 

The Dubious Gift of Life: Antinatalism in Poems and Essays

https://amzn.asia/d/aC8EPi4

著者出演Podcast

https://www.youtube.com/watch?v=M27UHfZf-QE

反出生主義者が見た映画『あのこと』

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 生々しい肉体的な痛みが凝縮された作品でした。劇場は終始張り詰めた空気に包まれ、前の席に座られていた私よりも遥かに人生経験豊富であろう壮年のご夫妻も劇場を出てから暫く全くお話される様子もなく、この作品に込められた尋常ならざる覚悟の重みを改めて痛感しました。戦争の産めよ殖やせよ的名残、宗教、今よりさらに強かったであろうミソジニーがもたらした歪みがひとりひとりの女性にどれだけ重くのしかかっていたことか。自身も中絶経験があり、Annie Ernauxの原作が描写する時代背景に怒りを抱いたAudrey Diwan監督以上に人間、特に女性の性やエゴ、自意識、強さ、逞しさ、弱さ、そして温かみを上手く、激しく描写出来る作家はほぼいないでしょう。

 

 以下、ネタバレしている箇所あり

 

 

 中絶を取り巻いていた環境

 映画では具体的な年数は提示されていませんでいたが、簡単に調べたところ当時のフランスでは中絶を試みた女性自身は6か月から2年の懲役と360~2000フランの罰金の併科、中絶を行った者は1年から5年の懲役と1800~10000フランの罰金の併科、そして常習的に中絶を行っていた者に対しては5年から10年の懲役と18000~2500000フランの罰金の併科に処せられていたようです。懲役に関しては言うに及ばずですが、当時1フランは75円ほどだったということで罰金も全く軽い額でなかったと言えます。

 

 当時”天使をつくるもの”と暗に呼ばれていた堕胎医が劇中に登場し、主人公に400フラン要求していましたが、ばれるリスクを考えると見合っているのかどうか微妙な額にも思えてきます。

 

 加えて中絶を行っていた者が医師や薬剤師などであった場合は最低でも5年服務出来なくなるとの規定もあり、実質各職に対しての死刑宣告ですから、劇中で医師たちが主人公が少し中絶を仄めかしただけで焦りを隠せなかったのも頷けます。*1

 

 反出生主義と中絶

 

これから簡単に紹介するどちらの論も、法的な次元ではなく厳密な道徳や倫理的立場に立脚している為、法的に中絶の実行を最終的に握るのは女性であるとしていることは共通していることを最初に記しておきます。

 

 まず、反出生主義の代表的な論客の一人であるDavid Benatarは自身のPro-death viewで中絶を擁護していることで知られています。中絶をしないのには極めて優れた理由を要する、と強い論調を展開しつつ、Pro-death viewへの道のりを機能的利害・生物的利害・意識的利害・反省的利害から妊娠期別胎児の脳波検査、胎児が「私たちと同じような未来」を持っているとするMarquisの議論などの検討を通して舗装しています。この議論に加えて「中絶を認めないないし促進しないことには苦痛を感じる主体が増える」という直感も手伝ってか、他の多くの反出生主義者もこれに倣うかProchoice派です。

 

 一方、少数派ながらJulio Cabreraは上記の直感は単純なものに失すると論じ、性暴力や母体の危険といった例外的ケースを除いて中絶に反対する立場を取っています。もう少し具体的に述べると、(実存主義に基づけば)人間の存在は生物学的要素や意識の有無といった事項によってのみ支えられているのではない。また、生むにしても中絶するにしても結局胎児はその段階では生む側の欲を充足させるためのモノとしてしか実質扱われていない。結果として、この世にこどもを引き込むことがあらゆる脅威に誰かをさらすことに他ならないにしても、他者ではなくこの世に引き込まれた自身がその脅威をどう扱うかの主体になれるという点で、中絶しないことは優れた選択肢と結んでいます。

 

 この文章を書いている私はProchoice寄りの人間ですが、両者の考え方を理解したり煮詰めたりすることで、よくある反出生主義者はなぜ自殺しないのか?という素朴な暴言に対し、一部の反出生主義者はたとえ自分たちの中だけだったとしても説得力のある反論を用意出来るかもしれない、そんな心持になりました。

 

 改めて感想をもう少し

 

 本作の主人公、アンヌはいつかこどもは欲しいが学業に打ち込めないだろうから、将来の選択肢が狭まってしまえばこどもを愛することなど出来ないだろうという理由で違法だった中絶を試みます。友人からも見捨てられそうになり、妊娠させた男にもそっけなく扱われ、仕方なく掻爬法を試みるシーンがあまりにも切迫していて、だからこそ主人公と違った思想に至った人間にも真摯に訴えかけてくるものがありました。

 

 言うまでもなく主人公を取り巻いていた当時は今現在と地続きであり、少なくない金銭と引き換えに別地方や海外に渡航するか、自身を死や病気の危険に晒してでも中絶を試みるか、ひょっとするとそれよりもひどい環境に置かれた女性もまだまだ大勢いる状況です。

 

 反出生主義と中絶の権利を巡る応酬は距離がありますし、反出生主義者の間で中絶に関する議論が十分になされているとも言えないながら、社会の不都合になる意見・行為が圧殺され続けるおぞましい現状に危機感を覚えました。恐怖は”進化しすぎた意識”なる人としての普遍的な次元だけではなく、あまりにも身近でリアルなところまでも足音を立てているといって差し支えないのかもしれません。

 

 

 

 参考

 

http://ayanokanezuka.jugem.jp/?eid=56

 

http://www.atheismandthecity.com/2018/04/abortion-and-anti-natalism-part-2-pro.html

 

https://fxtop.com/jp/cnvhisto.php

 

https://www.youtube.com/watch?v=7HhFZ38zYQ8

 

 https://www.lacommune.org/Parti-des-travailleurs/archives/France/La-bataille-pour-le-droit-a-l-avortement-i1688.html

 

 https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-reviews/happening-levenement-1235009267/

 

 https://www.ledevoir.com/culture/cinema/676017/cinema-l-evenement-c-est-a-moi-que-ca-arrive

 

 

*1:フランス語の法律原文が読めず、翻訳に頼ったので各年数や金額は間違いの可能性アリ

反出生主義関連本三冊一挙紹介!

 

 

 今回は反出生主義を解説した書籍・反出生主義者に役立ちそうな書籍を三冊紹介します。

 

 トップバッターはライターの品田遊氏の小説・「正しい人類滅亡計画」です。

 

 今回紹介する本の中では一番とっつきやすく、Amazonのレビュー数も一番多いです。

 

 装丁もポップで、通常なら「何万部突破!」とか「誰誰が絶賛!」とか書かれている箇所に78億まで達したボリューミーすぎる世界人口が代わりに載っていてお茶目です。

 

 人類を滅亡させるという義務を負い、この世に突然顕現した魔王。しかし、魔王は自身の使命に納得がいかず、10名の人間を召使いに召集させ、議論させた上で結論を出すことを決意するというのが導入です。

 

 この10人の呼び名は色に因んでおり、反出生主義者は「ブラック」、悲観主義者は「ブルー」、楽観主義者は「イエロー」など、色と各人の思想が何となくリンクしている形となっています。

 

 ほぼ終始反出生主義者の“ブラック“が議論の中核となって主に道徳や宗教等を巡る議論が200頁ほどに渡って丁寧に繰り広げられる中でも、同意を取らずに野良猫に去勢手術を施すことや危険を冒してまでバイクツーリングで楽しみを得ることの是非など、

多く挟まれる日常的な挿話をちりばめて読者を置いてけぼりにしない優れた工夫があり、時にお互いの意見に触発されたり時に感情をむき出しにしたりしながら意見を通そうとする彼らと同席しているつもりでさらっと読めるでしょう。更に、各章の終わりで魔王の召使がポイントを掻い摘んでまとめてくれている超親切設計です。

 

 

 故に、内容は本格的で、反出生主義の基本は全て踏まえられているといっても過言ではありません。

 

 そして、結論を下すのが「魔王」であることを活かし切ったユニークなエンディングも見事です。

 

 似た役割を果たしてくれそうな書籍のなかには読むことすら難しいものもあるということで、それは残念なのですが、本書は哲学・法学・生命倫理学・功利主義(私もさっぱりわからない領域です)等を踏まえた更なる深掘りへ読者を誘う存在として出色と言えます。

 

 続いて二冊目の紹介に参ります。こちらもある意味「魔王」が関わっている本と言えましょう。

 

 同じくポップ路線の表紙でありながら何やら明らかに様子が違います。ちょっと不穏です。タイトルの『生まれてきたことが苦しいあなたに』からしてそうです。しかし、純粋に反出生主義にフォーカスした本ではありません。直接触れているのは中盤と終盤一部のみです。このミスリーディング疑惑は著者も本文で触れていて本心ではなかったぽいです。

 

 反出生主義者としても名高いシオラン

 

 聞いたことはあるけどよくわからない・・・・そんな一般ピープルの救世主たる一冊こそこの「生まれてきたことが苦しいあなたに」です。実際私もシオランは数冊読んだ位でどんな人物だったか一ミリも詳しくなかったのですが、ルーマニア思想史研究者大谷崇氏の分かりやすい解説で彼の生き様や思想の淵に触れることが出来ました。

 

 「正しい人類滅亡計画」に比べると少し難しい箇所もありますが、専門的な用語はほぼ使われていません。

 

著者がどのようにシオランに共感や反発を抱いたのか自身の経験も交えて語っているので馴染みやすいです。

 

 本書はまずシオランの生涯の概説から始まります。若いころから始まる言語や病との付き合い、祖国や友人との別離、職や出版の遍歴、パートナーとの生活そしてそれまで概ね売り上げも評価もいまいちだった著書群・功績が評価され始めるも遂にアルツハイマーの前に倒れた晩年までコンパクトにまとめられています。

 

 ここまで読んだだけである意味で誰よりもめんどくさくて人間臭い人だったんだなというのが解ってきて、読み進めていくにつれよりその印象は更に強まっていきました。

 

 というのに、個人的には普段は明るく話好きな人だったというのがとても意外でしたね。

 

 さて、本編一部ではより各著書からの引用をふんだんに盛り込みながら

 

 シオランの書籍で扱われてきたテーマを順に解説しています。具体的には「怠惰と疲労」「自殺」「憎悪と衰弱」「文明と衰退」「人生のむなしさ」「病気と敗北」です。

 

 なんだかこの一覧だけでそれこそめまいがしそうですね。でも何だか溜飲が下がるラインナップでもあります。

 

 「自殺」を真の解決策や不条理な世界への抵抗とは見做さないショーペンハウアーカミュと違い、「自殺」自体やそれに思いを馳せることから生じる解放や、

 

 「憎悪」を優れた活力の源と見做す一方で憎んでいる相手と自身をある種同質化させてしまうことや、

 

 「敗北」や「病気」に伴う怨恨じみた社会全体や成功者への攻撃性まで見逃さない一見シニカルで逆説的なシオラン箴言が、論理ベースの反出生主義だけでは拾いきれないヒトの嘆息やグラデーションを細やかに叙述するのに誰よりも長けていることが理解できました。

 

 成長や貢献、希望や将来といった耳障りが一見良い言葉が延々カンフル剤のようにひとりひとりを麻痺させる現代であるからこそ、密やかに燻りながらも輝く撞着や矛盾をも飲み込んだ箴言は時に読者に寄り添い、時に突き放し、考えさせるのでしょう。

 

 本編二部で解説されている社会に溶け込まず、きれずにしくじり続け、もがき続けたシオランの中途半端な「醜態」が現代の反出生主義作品の「それでも書いてしまう」という行為の礎の一つにあることもまた感じられました。

 

 シオランを研究して下さった文書にさらにペラい感想を垂れ流してしまうというシオランからすると論外なムーブに出てしまいましたが、本書のおかげで「生」という手錠がほんのわずかに緩んだ気がしました。

 

トリを飾るのは『現代思想2019年11月号、反出生主義を考える』です。

 

 日本の哲学者、文筆家、倫理学者、社会学者といった専門家たちが、反出生主義の考察、批判、発展を試みる論考、そして、ベネターやサディアス・メッツの論文の邦訳がメインコンテンツとなっています。ここでは前者に主に射程を合わせて話していきます。

 

 お固めの雑誌とあって内容はこれまで紹介した二冊と比べて当然ながら難解な部分が多いのですが、反出生主義の前提知識さえあればじっくり読めば何とか専門知識が無くても大体分かってくる気がしました。

 

 不可知論を拡充した立場に立脚することで「生」を地獄と認めつつも、ファジーに生まれること・産むこと・そして生きていくことの善悪を皆が追求し易くしている反-出生奨励主義の提唱、

 

 釈迦の生涯・仏教の成り立ち・教義を踏まえて仏教が持つ智慧や性格と反出生主義の共通項や差異を図る考察、

 

 痛みを感じるロボットに反出生主義の倫理をあてがうことの可能性をロボットの社会的存在意義そして哲学者のメッツィンガーや倫理学者のガンケルの見識を踏まえて検証する試みなどは反出生主義に関心がない人にも特に強くアピールすると感じました。

 

 他に、海外の反出生主義論壇にあまり見られない独自性の高い論考として、ハンス・ヨナスによる乳飲み子・未来・人類存続に対する責任の原理にまつわる思想から出生の価値やそれを取り巻く環境を再考する論考、そして

 

 

 反出生主義が一人一人に支持される根本的な理由をポリアンナ効果等の理論よりも生に伴う苦の実感であると適示した上で、文学やサブカルチャーから遺伝・時間の概念まで無尽に書き連ね、未来に搾取されるのではなく苦に満ちた生を創造的に、且つ相関的に生きることを進める論考がありました。

 

 しかしながら、専門知識を持ち合わせない素人が口出しするのもおかしいのは承知ですが、人種差別やジェンダーに関わる議論を反出生主義者の論客があたかも丁重に言及してこなかったかのように扱い、反出生主義者の社会問題に対する認識なんてこんなものだと決めつけ気味になってしまっている厳密さを欠いた箇所が後半の一部の論考に見受けられたのは誤解を誘発しそうで明らかに拙かったですね。

 

 こういった「混乱」も含めて反出生主義の現代的なシーンであるとも言えなくはないし編集上の理由もあったのでしょうが・・・

 

 総評として、多少難はあるものの、反出生主義を自由な視座から徹底的に捉え直す為の一つの羅針盤のような雑誌であると言えます。

 

 同じく内容に誤りが含まれているという欠点*1はあるものの、『闇の自己啓発』の第5章も反出生主義を現代思想の潮流全体からマクロな視点で探究するのに役立つでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:”Human Predicament"を参照するに、ベネターがロボットやAIとジョイントして永久に生きることを望むとは考えられません。本自体はちょっとおふざけが行きすぎつつも趣深いです

未邦訳反出生主義本探求其参 Thomas Ligotti “The Conspiracy Against The Human Race”

 未邦訳反出生主義本探求其参 Thomas Ligotti “The Conspiracy Against The Human Race”

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 2010年にアメリカのホラー作家が上梓したノンフィクション作品。Better Never to Have Been同様、True Detectiveのシーズン1制作の参考になったことでも有名。一話でラストが自身の哲学を訥々と語るところにそれが顕著。

 

 人が生きるということは、進化しすぎた“意識”を持っていることはホラーである・・・そんなメッセージが全編にわたって散りばめられた本書。” Cantankerous” や“Exegesis”など耳なじみのないBig Words、そして複雑で長めの文が散りばめられ、読み始めはとっつきにくい印象でした。内容もZapffeの哲学理論などやや抽象的で中々釈然としてこないのもその要因であったと思います。前回紹介した"History of Antinatalism"同様,一介の凡骨もといぽんこつの私では理解が及ばない箇所が数え切れませんでした。反面、後半に行くにつれ著者の文章にも少しずつ慣れていくと、著者以外のホラー作品の引用も混ざりだし、内容が個別具体的になるので純粋に著者の博覧強記さ、筆致に引き込まれていきます。

 

著者が序文で軽く触れたように”Being alive is all right”といった戯けた常識が壊されていくことにじわじわ怯懦しつつもそこにカタルシスを感じられる快作。即物的な快楽や現実逃避に少し疲れて来た方が少しずつ読み進めるのにうってつけであります。

Abema 親ガチャ回 感想

  

         www.youtube.com

 

 反出生主義は基本、誰であっても生まれてこないに越したことはないし生む理由はないという哲学なので『親ガチャ』の議論とは重ならない部分もあります。故に最適解が反出生主義者の中では既に出てしまっているため、こういった類の問題に関しては普段突っ込んで考えないということもあり、そういった点では視界が開けた感がありました。

 

 この動画や他所でも親ガチャという言葉の存在や響き自体に、親ガチャは人生を浪費させるだけであるとか侮蔑的だとかいう意見を以て否定する方も見られますが、そういえば、親ガチャ議論と良く結びつけられるサンデルの本でも有名大学の学生らが社会に対して貢献せねばならないというプレッシャー故に潰れがちであることが指摘されていた気がします。金持ちや成功者にも悩みがあるのだから云々と済ませるわけにも行きませんが、こういった類のストレス、そしてそれを乗り越えたというプライドも親ガチャという言葉自体を巡るいがみ合いや罵りあいを助長しているのは違いないでしょう。努力の旨味にあずかっている側が努力史上主義がもたらす毒を拡散し、や努力が見せてくれるはずであろう景色への疑念を高める先鋒を担っているのもむべなるかなと*1

 

 また、もっともポジティブなシナリオに日本や世界が沿ったとしても、生活を良くしたいという欲・向上心は際涯なく広がるでしょうからその意味でも親ガチャを否定するのはナンセンスではないかなあともぼんやり思った次第です。

*1:若い層が多いであろう上のyoutubeのコメ欄と中高年層が多いであろうここのコメ欄での親ガチャに対する温度差も、理由は違ってきますが詮無きことでしょう

Abema prime 反出生主義特集 雑想②

 前回の記事を読み直して、抽象的な内容に失しすぎたという反省がありましたので、出演者の方のコメントに勝手にコメントするという卑怯千万、失礼千万な記事を自分の考えをまとめるという意味でも残しておこうと思います。

 

 まず、この考え-反出生主義-は結構膾炙してきていると前に語りましたが、改めてざっくりAbemaを見返してみると、反出生主義を一定分理解しようとする出演者ばかりではなく、やはり反出生主義が彼らの“常識”にそぐわないからか、強めに普段あらわにしないほどに感情的な反応を取っている出演者もいたように思えました。特に、りんたろーさん、柴田アナ、パックンさんは終始反出生主義へ反論することばかり念頭に置いていてディスカッションに参加しているという感じではないように感じました。一般社会でも反出生主義を公言しようものならこういう反応になることはままだ残念ながら必至でしょう。私自身、親しい何人かにそれとなく反出生主義をほのめかしてみましたが『本当にいい考えだと思う。その通りだ』と返答してくれたのはこれまで1人か2人でした。

 

 人間は幼稚で醜い、けどそれを当たり前だと受け入れて、自分がそういった意見、反出生主義を唱えられることにも感謝して生きるべき。自動車やタバコはリスクもよく取りざたされるが(自分にとっては特に)幸福をもたらすものだし、その幸福を否定することの意味はよくわからない。

 

 りんたろーさんはこういう風に仰っていましたが、反出生主義は自動車やタバコを進んで自分から選択することではなく、自動車に勝手に人を乗せて運転させたりタバコを強引に人に吸わせたりことを忌避しますから、やっぱり大前提からして反出生主義自体にかなり拒否感を抱いていたのかなと思ってしまいます。極言してしまえば、人生というクソゲー神ゲーと認識するように自身を作り変えていける方なのでしょうが、反出生主義者でもそういったアプローチをとって苦痛を和らげようとする方はいらっしゃるので、そういったタイプの方とりんたろーさんが歓談されたらどういう結果になるのか気になりました。

 

 「コンプライアンス上何を言っても良いのだろうが、子どもを産みたい人に反出生主義を押し付けるのは違う」と柴田アナは何度も語っていましたが、これも反論としてはだいぶズレていたかなという気がしてなりません。反出生主義者は、この番組でも森岡教授が発言していた通り、出生を思いとどまらせることに関してはほとんどの場合説得ベースですし、兼近さんがやんわり示した通り、「では出生を押し付けることはどうなのか」という疑問にはなんの回答にもなっていません。番組を通しても、このポイントはグレーなままで終わってしまい、一反出生主義者として忸怩たる思いが残ってしまいました。次回があるならこの辺をもっと突っ込んでもらいたいです。

 

 ついでにライターの秋山さんの「反出生主義が高齢出産を考えている当事者を思いとどまらせたり傷つけたりしまう」という発言に関しても、少し強引ではありますが、良き親を目指すなら、出生という押し付けを選ぶ前に悩むことはそれこそ当然課されるべきことだし、反出生主義が与える苦痛をマイナス要素として勘案するなら生まれさせられる子が確実に味わう苦痛に関しても同様に評価しなければならないハズでは、と思いました。また、子供を持たなくてはならないという社会からの無言の圧力もスルー出来ないことにも言及がなされるべきでしょう。

 

 パックンさんに関しても、反出生主義を予習してきたハズが、らしくないパワープレイ-多くの子供は幸せに育っていくだろうから不幸な一部の人がその実感を他者に押し付けるのはよくない-といった発言が目立ち、番組の中盤で非対称性理論が解説されたのは何だったんだろうと首をかしげざるを得ませんでした。

 

 しかしながら、Abema Prime自体は中核派のこと人間関係リセット症候群とか尖ったことを扱っていて面白いし、そうなるとやはり反出生主義についても第二弾以降の特集が欲しいところです。最近の親ガチャ回についてもそのうち感想をまとめてみようと思います。

 

 

 

参考

https://www.youtube.com/watch?v=vla0eoMQ4GY

https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p2866 

今更!Abemaprime 反出生主義特集 雑想

  ここ数か月ほど色々ごちゃついていてネットをあまりチェック出来ていなかった間にも、反出生主義を扱った本が上梓され、マンガでも反出生主義が取り上げられ、そしてAbemaで反出生主義特集があったようで、Youtube のコメント欄も荒れるどころか、 今でもちらほら反出生主義に共感的な方々のコメントが続々と投稿されていて、数年前はまだまだアングラだったこの思想も膾炙してきているんだな~と勝手に感慨深くなっておりました。

 

 番組自体は、反出生主義者の専門家や本の名前が殆ど出ず、出演者の反出生主義に関する見解もどこかで聞いたような反論に偏りがちで、反出生主義側が投げかけた疑問の回答として成立しているようには感じられず、素人なりにももうちょっとそのあたりを掘り下げて欲しかった、反出生主義の哲学・理論的な側面ももう少し触れて欲しかったなという気がしましたが、40分の生放送枠で語るには全体像が渺茫過ぎる話題ということもあり、これに関して愚痴るのもまあアレでしょう。雑に考えてガチでやるなら1シーズン10話前後のドキュメンタリーを3シーズン続ける位はやることになるでしょうし、「自殺を推奨する思想ではない」「非対称性理論」などのツボは確り押さえられていましたし。それよりあまり詳しく存じませんがEXITの兼近さんの様な有名人が反出生主義にシンパシーを表してくれたのがなによりもほっとしました。地獄に許可なく他人を生み出すこと、苛烈な競争の最中で誰かを蹴落とし続けることへの違和感を、この表現は嫌いですが、「成功者」が抱くこともあると改めて認識できたのが一番の収穫でした。

 

参考

https://www.youtube.com/watch?v=vla0eoMQ4GY

https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p2866 

https://ameblo.jp/r-kohinata/entry-12679166752.html

https://www.amazon.co.jp/dp/4781620043/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_KQWNDRDM1JFGSMWJRDHT

https://twitter.com/miyazaki_aa/status/1426449378558955526